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読書の夏 5.-日本語のルーツ

読書の夏、次の本は趣向を変えて、日本語のルーツに迫る本。

藤村由加 「人麻呂の暗号」

国語の時間に習って、誰もが名前は知っている「万葉集」
日本最古の歌集、ということは知ってはいても、
4000年という長きに渡る期間の様々な詩歌を編纂したものだったとは、
知りませんでした。
実に、現代から室町時代あたりまでに等しい期間の詩歌が一堂に会しているのだそう。
本書で焦点をあてているのは、その万葉集の中でも初期万葉と言われる、
いわゆる大和言葉が確立される前の時代の漢文字で書かれた詩歌、
とりわけ、文字の達人として評価の高い柿本人麻呂の歌をとりあげ、
従来の漢文字から起こした読み下し文の裏に隠されたメッセージを読み解く、
という、なんとも言語学をミステリーチックに味付けした、読みやすい本です。

7カ国で会話を、というコンセプトの集会、「ヒポファミリー」「ヒポクラブ」など、
語学に関心があれば耳にしたことのある団体のカレッジに通う学生数名の共著で、
独自の方法で韓国語を習得した彼らは、韓国語と日本語の音の共通に着目し、
日本語で特に意味を成さずに使われてきている語の多くが、
韓国語の音に当てはめた時に、ちゃんとした意味が見出せることに着目、
その観点から、初期万葉で解釈不能とされていた多くの歌の中に、
はっきりとした意味を見出す、という地道な作業を行っていきます。

「お腹がぺこぺこ」に使われる「ぺこぺこ」などの慣用句、
子守唄や童謡など、古くから伝わる歌の歌詞で意味不明である語句、
「だるまさんがころんだ」という遊戯にまつわる語源の話、など
日本語としては何の意味も発生しない語、意味がちぐはぐになるような語が、
同じ音を韓国語に当てはめてみるとちゃんとした意味が発生する、という本書の記載は、
筋道だって説明されるとナルホドと思わされることばかりで、
それを万葉集の解読に転用していくのは、至極まっとうに思えます。
元々、古代日本は、中国や朝鮮から来た人々が多くいたでしょうし、
古代のアジア地域で先進国といえば中国だったわけですから、
より中国に近かった朝鮮という地域の人々が、文字を含むより進んだ文明を
日本にもたらしたと考えるのは自然です。
古代の日本語が多分に朝鮮語(韓国語)に近いものだったというのも、
もっともなことです。
至極まっとうと思われるこのアプローチも、国文学の世界では長く禁じ手だったようで、
本の中では、そのようなアプローチに否定的な方との邂逅も描かれています。

文字や言語も確立されていない古代日本において、
言語は現在のITに匹敵する、情報をつかさどる最新技術だったそうで、
文字を熟知していた人麻呂ら朝鮮からの渡来人たちは、
古代宮廷においては非常に位の高いエリート職だったといえるそう。
そんな彼らの残した漢文字の歌を、上記の視点で読み込んでいくと、
一字一字に、その文字のもつ意味のみならず、音を通した多くの別の文字が呼応し、
また、歌の中に使われた他の文字と、意味や背景の点で相互に呼応し、
表面的な意味の水面下に、多くの別の意味をも含んでいることもままあるそうです。
更には、長く文意不明とされている歌も、同様の方法で読みこむことにより、
何らの意味を浮かび上がらせることができるようなのです。
それらを、一字一字丁寧に読み解いていく作業は、
実に膨大な労力を要するものでしょう。
幾度も原文を眺め、和漢韓の辞書をめくり、議論を重ねていく・・・。
本書においては、その苦労されたであろう過程を最小限にとどめ、
読み解いた先の情景をするするとわかりやすく引き出していく様は、
まさにミステリー小説において、探偵が大団円で行う謎解きの場面のよう。
文字にするとたった一文字の漢字の後ろから、
歌人の様々な意図や思い、読み手の想像も含めた
膨大な量の情報が引き出されていきます。
タイトルの「暗号」とは言い得て妙で、
「暗号」という形を用いざるを得なかった当時の世相、背景なども推して、
いつの時代も権謀術数渦巻く政治の場、古代宮廷の世界において
浮沈するひとりの歌人の思いが、何千年もの時を経て読み解かれていくのは
感無量でもあり圧巻でもあり、なかなか読み応えのある一冊でした。
by chocolat_13 | 2007-08-11 13:54 | 本・映画

カフェと古楽と着物好きの   お気楽ガンバ弾きの日常です。 


by chocolat_13
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